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Lifelong Thinker's Log

ヘッジファンド勤務のアナリストが投資、経済、経営を中心に日々の学びや思索を記録していきます。(本ブログの内容は個人的見解に基づくものであり、所属組織及び企業の意見を代弁するものではありません。なお、個別の投資に役立つような情報は一切含まれておりませんので、その点は期待せぬようお願いいたします。)

「好奇心」というエッジ、最後のリベラルアーツとしての投資

ヘッジファンド業界周辺ではよく「エッジ」(edge)という単語が使われる。訳すなら「優位性」とか「強み」といったところか。あのファンドのエッジは何か、とか、その取引はどこにエッジがあるのか、のような使い方をする。これは個人に対しても使うことができ、「彼のエッジ」と言った時には、彼が平均的な人と比べて何が優れているのか、を指すことになる。

私のエッジが何かと問われれば間違いなく「好奇心」であると答える。そもそも、この業界に入ろうと思った一番の理由はそこにある。自分の好奇心に任せた「学び」を追求することがエッジに繋がるような業界で働きたいと思ったわけだ。言わば、楠木建教授が最強の仕事理論と説く「努力の娯楽化」の実践である。

もちろん、アナリストとしての主な仕事はリサーチ、分析であって学ぶことそれ自体はないしごとではないが、リサーチ、分析の最終的な目的は、投資判断であり、意思決定だ。良い意思決定をするためには幅広い分野を学ぶことが欠かせない。学ぶことを苦痛や面倒に感じるようであれば、それは長続きしないだろう。ここに好奇心がエッジたり得る理由がある。読書や人との出会いを通じて新しいことを学ぶこと自体が楽しいのだ。趣味が仕事の能力強化に繋がる、こんな楽しい話はそうそう無い。

 

良い投資家の条件として「多読」を挙げる投資家は多い。代表的なところではWarren Buffettや、その右腕のCharie Mungerが挙げられる。Buffett曰く「私達以上に読むことに時間を割いているパートナーシップはない」そうである。ここでの多読は新聞の購読も含むものだが、Mungerにとっては、彼の言う「智慧」(worldly wisdom)を身につけるための読書という意味合いが大きいようだ。

智慧についてはTren Griffin「完全なる投資家の頭の中」の3章で取り上げられている。投資家としてのマインドセットの基礎を組み立てる上でとても良い本なので、関心のある方は是非読んでみて欲しい。原典主義の方は、Munger本人の智慧に関するスピーチも色々な所で紹介されている(例えばこちら(英文))。それほど長くないので、こちらも読んでみると良い。

ここでMungerが知識(knowledge)ではなく智慧(wisdom)という言葉を使っているのには理由がある。複数の分野にまたがる知識を、バラバラにではなく全体として組み合わせて使わないと良い判断ができないからである。「経済学」とか「ファイナンス」といった特定の分野のレンズだけを通して物事を見ても、投資家として出くわす問題に上手く対処できない。自分のもつレンズに現実を無理やり合わせて理解しようとしてしまうからだ。現実に正しく対処するためには複数の分野のアイデアを利用することが欠かせない。複雑系で有名なサンタフェ研究所の設立理念に通ずるところがある。

Mungerは各分野のコアとなる重要なコンセプトを、メンタルモデルと呼んでいる。言わば「世界をどのようなレンズで見るか」のフレームワークだ。良い判断を下すためには、多数のメンタルモデルを持つことが必要であり、一般教養が必要だとしている。

[T]he theory of modern education is that you need a general education before you specialize. And I think to some extent, before you're going to be a great stock picker, you need some general education.

Mungerのこのような考え方はバフェット本でも有名なHagstomのInvesting: The Last Liberal Artで詳しく紹介されている。投資を、幅広い教養を必要とする最後の(究極の)リベラルアーツだと言う考え方はとても興味深い。是非とも多数のメンタルモデルをマスターしたいものでる。

最終的にはMungerのような多数のモデルを身に着けた良い投資家になれればと思うが、Munger自身は80〜90のモデルで智慧に必要な知識の90%は得られるとしている。「完全なる投資家の頭の中」の著者が、Mungerの使用しているメンタルモデルの(不完全な)リストをまとめてくれているのでこちらも参考に。会計、生物学、ビジネス、科学、情報科学、経済学、工学、法学、経営科学、数学、確率、統計学、哲学、文学、物理学、という多数の分野のメンタルモデルが活用されていることがよく分かる。

80〜90と限定せず、広範な分野を学び、多数のメンタルモデルを獲得し、知識と知識を組み合わせることで智慧を生み出していく。これが本ブログの目指すところである。投資、経済、経営に限らず様々な分野の学びを記録して行ければと思う。本好きの方なら、投資自体に関心がなくても面白い内容になると思う。